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大阪高等裁判所 平成元年(行コ)29号 判決

控訴人

沖野敏男

被控訴人

神戸港労働公共職業安定所長畠中多賀治

指定代理人

下野恭裕

北村博昭

黒田淳

峰広幸

中筋孝二

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対して昭和六一年一〇月一七日付でした日雇港湾労働者登録取消処分を取消す。

3  控訴費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次に付加するほか、原判決事実欄に摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する(ただし、原判決八枚目表六行目の「運用基準一(4)」(本誌五四四号〈以下同じ〉55頁3段25行目)を「運用基準1(4)」と訂正する。)。

(当審における控訴人の主張)

別紙(略)記載のとおりである。

第三証拠関係(略)

理由

一  当裁判所も控訴人の被控訴人に対する本訴請求は理由がないのでこれを棄却すべきものと判断するところ、その理由は、次に付加するほか、原判決理由説示のとおりであるから、ここにこれを引用する(ただし、原判決一三枚目表八行目の「八条一項三号、」(本誌五四四号57頁2段6行目)を「八条一項一号、三号、一九一号通達の別紙2の二(1)、一1(1)、(3)、」と訂正する。)。

当審における証拠調べの結果によっても、右認定、判断を変更する理由を見出しがたい。

(当審における控訴人の主張について)

1  控訴人は、原判決が事実摘示の「第二、当事者の主張」「一請求原因」の2(53頁4段7行目)において、「本件処分」と略称しているものは「不真正」のものであり、真正のものは同記載の(一)、(二)に対応する根拠法を掲げたものであり、控訴人が違法な処分として取消を求めている処分はこの真正なものであるのに、原判決はその記載を欠くので行政事件訴訟法七条、民事訴訟法一八六条、一九一条一項二号、三号、二項に違背する旨主張する。

弁論の全趣旨によると、本訴は被控訴人の控訴人に対して昭和六一年一〇月一七日付でした日雇港湾労働者登録取消処分の取消を請求する訴訟であり、その訴訟においては、右処分が国民に新たな不利益を課す処分であるので、被控訴人が右処分の適法性についての主張責任を負担するというべく、控訴人は右処分を特定するに足りる事実を主張すれば足りると解すべきであるところ、原判決の右記載部分をもってすれば右処分を特定するに足りるものというべきである。

なお、原判決は右主張責任の分配の理論に基づき、五枚目表一一行目(54頁4段8行目)から八枚目表八行目(55頁3段30行目)までにおいて、被控訴人の主張として本件処分の適法につき記載しており、その中に根拠法についてふれている。

それゆえ、右の点につき、原判決に控訴人主張のような法令違背はない。

2  控訴人は、控訴人が被控訴人所属の労働課長浅見亨と本件処分の送付を受けた日である昭和六一年一〇月一七日に面談し、〈1〉公傷期間を引き延ばしたと判断した根拠は何か、〈2〉昭和六一年一〇月一日から一〇月一七日までは何の期間かと質問したのに対し、同課長が右〈1〉については被控訴人がそのように判断したのであるから不服があれば審査請求で争ってくれ、右〈2〉については調査期間である旨返答したこと、控訴人が右〈2〉につき、「そんなこと控訴人が仕事にでながらでも、できるではないか?」と抗議したところ、同課長が「仕事にでるということになると、それは登録取消しにはならない。」旨の発言をしたこと、港湾紹介第一係長野中正信が同年九月三〇日控訴人の日雇手帳を受け取ったことは当事者間に争いがない事実であるのに、原判決はこの事実を欠落させて判断しており、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法一八五条、一四〇条、二五七条に違背する旨主張する。

なるほど、弁論の全趣旨によると、右主張に係る事実は当事者間に争いがない事実であることが認められるが、本訴における本件処分の適法性の具体的内容は、〈1〉登録日雇港湾労働者は、疾病又は負傷等の正当の理由がない限り、公共職業安定所に出頭しなければならないということを定める法二〇条一項本文に控訴人が違反したこと(法一〇条一項五号、一九一号通達の別紙(略)2の二(3))、〈2〉登録日雇港湾労働者が港湾労働に従事するために必要な能力を有しない者、あるいは適格性を欠く者としての常習的公傷者に控訴人が該当し、これにつき事業主から公共職業安定所長に対し通報があった場合に該当するということ(法一〇条一項一号、八条一項一号又は三号、一九一号通達の別紙2の二(1)、一1(1)、(3))であるので、この二点が本訴の中心的争点であり、右争いのない事実はこの争点の判断には関係がないことが明らかである。

ただし、右争いのない事実は控訴人の主張中の他事考慮によって作意的に控訴人を狙い打ちにしたという旨の処分権限の濫用的行使の主張にそう事実であると解しえないではないが、原審証人野中正信の証言に照らして考えると、右争いのない事実を考慮にいれ、本件全証拠をもってしても右濫用の事実を認めることができない。

3  控訴人は、原判決書に裁判官の捺印並びに原本交付の旨及びその日付の欄に裁判所書記官の捺印が欠けている旨主張するが、弁論の全趣旨(原審の記録中の原判決原本)によれば、原判決書に裁判官の捺印並びに右の趣旨の裁判所書記官の捺印がなされていることが認められるので、何ら不適法な点は存しない。

4  控訴人は、原審において準備手続がなされたのに要約調書が作成されなかったのは、行政事件訴訟法七条、民事訴訟規則二一条二項に違反する旨主張する。なるほど、弁論の全趣旨(原審の記録中の口頭弁論調書)によれば、原審において準備手続がなされ、要約調書が作成されなかったことが認められるけれども、弁論の全趣旨によると、本件は煩雑な事件ではないことが認められ、要約調書の作成は任意的なものと解すべきであるので、これがなされなかったことが行政事件訴訟法七条、民事訴訟規則二一条二項に違反するとはいえない。

5  控訴人は、原審裁判所が証拠調の結果につき意見の聴取をしなかったことは行政事件訴訟法二四条但書に違反する旨主張するけれども、同条但書は職権による証拠調べを実施した場合に関するところ、弁論の全趣旨(原審の記録中の口頭弁論調書)によれば、職権による証拠調べを実施したことは認められないので、右主張は採用しがたい。

6  控訴人は、別紙記載のとおり、その他種々の点にわたって主張するが、いずれも独自の見地から原判決及び原審の審理を批判するに過ぎず、これらの点に関する主張を考慮しても、原判決の認定、判断を変更すべき理由を見出せない。

二  してみれば、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき、行政事件控訴法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柳澤千昭 裁判官 東孝行 裁判官 松本哲泓)

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